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名古屋地方裁判所 昭和49年(ヨ)634号 決定 1974年5月29日

申請人

後藤幸雄

右代理人

加藤高規

外一〇名

被申請人

中部電力労働組合

右代表者

橋本孝一郎

右代理人

福永滋

主文

申請人が被申請人中部電力労働組合において、昭和四九年五月一七日に告示された昭和四九年度被申請人組合本部執行委員長選挙の立候補者の地位にあることを仮に定める、

申請人のその余の申請を却下する。

申請費用は被申請人の負担とする。

理由

一申請の趣旨及び理由は別紙(二)記載のとおりである。

二よつて按ずるに、本件疎明資料によれば次の事実が一応認められる。

(一)  被申請人組合は、その組合員数・地方本部数・支部数の点を除き、申請人主張のとおりの労働組合である。

(二)  申請人の昭和二三年三月愛知県立商業学校卒業後の職歴及び組合経歴はいずれも申請人主張のとおりであつて、申請人は被申請人組合の組合員として、本部代議員・評議員・本部役員(本部執行委員長・同副委員長・同書記長・同執行委員等)等の被選挙権を有している。

(三)  被申請人組合選挙規則によれば、本部代議員・本部評議員・本部役員の選挙の事務及び管理は本部執行委員会によつて設けられる選挙会がこれを行ない(同規則二条、四条、五条)、選挙に立候補する組合員は所定の立候補届(様式1)に必要事項を記入して選挙会に届出をすることになつているが、右立候補届様式には所属・氏名・生年月日・組合経歴・主義主張と並んで所属政党の記載欄があり(同規則一五条)、選挙会は右立候補届に基づき立候補者の資格を審査し立候補者の氏名・主張・所属政党その他の必要事項をその選挙区の組合員に通知する(同規則八条)こととなつている。しかし右立候補届の所属政党欄についての取扱いは従来まちまちで、同欄の記入のない届書も選挙会において受理され、そのような届書の提出者も立候補者として認められてきたこともあつた。

(四)  ところが、被申請人組合執行部は、昭和四八年六月、組合定期大会を前に同年度活動方針案を発表したが、その中で、民主社会主義を標榜し同盟の中核組織として民主的労働運動の積極的推進者となり、今後とも民社党を支持し民主社会主義勢力の拡大発展に努力する旨宣言すると共に、マルクス・レーニン主義を盲信し独善的な見解で誹謗・中傷する外部勢力(共産党)にあやつられて組織の統制を乱すような行為や事象に対しては徹底的な糾弾を加えるとの態度を明らかにした。

そして同年度からは、被申請人組合執行部は、所属政党は立候補者の必要的届出事項でありこの記入のない立候補届は受理しない見解及び方針をとるようになり、同年三月二八日実施の地方本部代議員・同役員選挙及び同年四月二二日実施の本部代議員・本部評議員選挙において、各選挙会は所属政党欄無記入もしくは「記入の必要なし」と記入した立候補届を受理せず立候補者としての公示においても除外するに至つた。

(五)  申請人は、右本部代議員の選挙に際し、主義主張欄に被申請人組合の「特定政党支持」の方針を批判する意見を記載するとともに所属政党欄に「記入の必要なし」と記入した立候補届を提出したが、選挙会は所属政党欄に所属政党の有無又は所属政党名の記載のないことを理由にこれを返戻し、結局申請人は右選挙において被選挙権の行使ができなかつた。

(六)  被申請人組合は、昭和四九年五月一七日組合員に対し、本部執行委員長・同副委員長・同書記長の選挙について、立候補締切同月二九日、立候補者発表六月三日、投票日同月一三日とする旨の告示をなした。

申請人は、五月二〇日本部執行委員長の立候補届をなしたが、その所属政党欄には何らの記入もしなかつたので、被申請人組合選挙会は右未記入を理由として立候補届を返戻したので、同月二一日申請人は右立候補届を郵便に付して選挙会に対し再度提出し、右立候補届は同月二一日選挙会に到達した。

三(一)  右認定の事実によれば、申請人は被申請人組合の本部執行委員長の被選挙権を有するにもかゝわらず、形式的手続のかしを理由に実質的にはその権利の行使を妨げられていることになる。

勿論被申請人組合は、役員の選挙に当つては、右選挙の目的に照らし或いは選挙事務の円滑な運営のために、その実施手続換言すれば組合員の選挙権・被選挙権の行使に関する手続についての規律を定めうることは当然であるが、右規律違反の効果についてはその趣旨に照らし別途に判断しなければならない。

そして本件立候補届の所属政党欄が必要的記載事項であり、かつ、立候補届出の有効要件であるか否かについては、組合規約及び選挙規則は何ら規定するところはないから、前同様その趣旨に照らして判断すべきである。

思うに右立候補届に所属政党欄が設けられている所以は、同じく立候補届の主義主張欄の記載及び前記選挙規則八条と相俟つて、立候補者の主義主張を選挙権者たる組合員に周知せしめ、組合員に対して、立候補者の組合役員としての適格性についての判断資料をより多く提供し、その選挙権行使を遺憾なからしめることにあるというべきであり、立候補者が任意にこれに応ずる限りにおいては右記載を求めることも一応の合理性を有するものといえる。

しかしながら、本来労働組合は労働者が使用者との関係において労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織するもので(労組法二条)、政治活動も労働者の経済的地位が政治的条件に影響される限りにおいては組合活動と無縁のものではないが、政治活動それ自体をもつて本質的なものということはできないから、労働組合の選挙の立候補者に対しその所属政党の届出を立候補の有効要件として義務づける一般的必要性はないものというべきである。

(二)  また、日本国憲法一九条は思想及び良心の自由を保障するが、内心における問題である限りにおいては他からこれに干渉できないのは当然のことであるから、多くの場合右保障は「思想及び良心」の現われとみられる積極的行為に対する制限が問題とされるが、「思想及び良心」の沈黙即ち消極的行為に対する制限もまた重要な問題を含んでいる。つまり、「思想及び良心」の表明を強制することそれ自体が直ちに「思想及び良心の自由」の侵害になるとは断じえないが、結果的にはそれによつて表明され或いは推知される思想又は良心に対して干渉することを容認することになるからである。それ故思想及び良心の自由の保障を実効あらしめるためには、思想又は良心の表明を強制されない自由、即ち沈黙する自由が保障されなければならず、したがつて「思想及び良心の自由」には右沈黙の自由も含まれるものと解すべきである。

そうすると、本件立候補届の所属政党欄を必要的記載事項であり右届出の有効要件と解することは、実質的には自己の思想の表明を拒否する組合員に対し、右思想及び良心の自由を侵害し、或いは、不当に被選挙権を奪うことになる(勿論所属政党名は思想そのものではないが、当該政党の掲げる思想の同調者であることの表明となるから、結局思想そのものの表明と異ならない。)。反面これを任意的記載と解した場合、右事項を記入しなかつた立候補者が、選挙権者たる組合員からそのために不利益な評価を受けたとしても、右不利益は、当該立候補者がこれを記入した場合に受けるであろう不利益と比較考量のうえ選択した結果によるものであるから、これを受忍すべきものとしても不当ではない。

そして前記認定のとおり、被申請人組合執行部が民社党支持を宣明しその批判勢力に対して糾弾を加える態度を明らかにしているのに対し、申請人がこれに同調できない場合、自己の思想を表明する結果受けるであろう不利益を避けるため、敢えて所属政党不記入の途をえらんだとしても何ら異とするに足りない。

(五)  右説示の諸事情を総合勘案すると、本件立候補届の所属政党欄は任意的記載事項であつて、同欄記入は、何ら立候補届出の有効要件ではないと解するのが相当である。

そうとすると、前記認定のとおり申請人の本部執行委員長立候補届出が返戻されたのは同欄の未記入が唯一の理由であつたことが窺われる他に選挙会には右立候補届の受理につき裁量権はないから、申請人の立候補届は、それが選挙会に提出された時点即ち遅くとも五月二一日には受理されたもの、即ち、受理の効果が生じたものというべきである。

したがつて、申請人は被申請人組合本部執行委員長選挙の立候補者の地位を取得したものというべきである。

四なお、申請人は右選挙の立候補者の公示から除外する等の被選挙権の妨害禁止を求めているが、申請人が右立候補者としての仮の地位を認められてもなお被申請人組合よりこれと別個に右のような妨害行為をなすおそれのあることについてはこれを認めるに足る疎明はないから、右申請部分は保全の必要についての疎明を欠くものというべきである。

五次に、被申請人組合本部執行委員長の選挙について、立候補締切が五月二九日、立候補者発表が六月三日、投票日が同月一三日の予定であることは前記認定のとおりであるから、申請人の提起する右選挙の立候補者としての地位確認等の本案判決をまつていては、申請人は右本部執行委員長への立候補(被選挙権の行使)を妨げられ回復し難い損害を蒙むることは明らかである。

六なお付言するに、前記のとおり選挙会は本部執行委員会がこれを設置し、選挙の事務及び管理を行なうものとなつているがその措置に対する不服申立等に関する規定はない。故に右選挙会は被申請人組合内においては独立性を有するとしても、公職選挙法における選挙管理委員会とはそのおもむきを異にし、組合員の選挙権・被選挙権に関する紛争について独立の当事者としてこれに当ることを期待しえない。したがつて右選挙会の措置に対する責任は被申請人組合に属するものと解するのが相当であるから、被申請人組合が本件仮処分申請について当事者適格を有するものというべきである。

七よつて、本件仮処分申請は、申請人が被申請人組合本部執行委員長選挙の立候補者の地位にあることを仮に定める限度においてその理由があるのでこれを認容し、その余の部分は疎明がないので失当としてこれを却下し、申請費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を適用して主文のとおり決定する。

(小沢博 渕上勤 前坂光雄)

別紙(二)  申請の趣旨

一、申請人は、昭和四九年五月一七日に告示された昭和四九年度中部電力労働組合本部執行委員長選挙の立候補者の地位にあることを仮に定める。

二、被申請人は、申請人を右選挙の立候補者の公示から除外する等申請人の被選挙権を妨害する一切の行為をしてはならない。

三、申請費用は、被申請人の負担とする。

との仮処分の命令を求める。

申請の理由

第一、当事者

一、被申請人

被申請人中部電力労働組合(以下中電労組という)は、中部電力株式会社の事業所に所属する労働者で組織された法人格を有する労働組合であり(組合規約第六条・三条)、本部とその下部機構として、本店・支店(支社)および火力発電所群を単位とする地方本部によつて構成され(同七条・八二条)、本部の直属支部として東京支部、地方本部の下部組織として、営業所等を単位とする支部を有する。

現在右労組の組合員数は約一六、八〇〇名、地方本部は九、支部は六九である。

二、申請人

申請人は、昭和二三年三月愛知県立商業学校を卒業後、当時の日本発送電株式会社に就職、同時に名古屋火力発電所事務課に勤務し、昭和二六年五月中部電力株式会社設立に伴ない同社に移籍され、現在岐阜支店大垣営業所総務課勤務である。

同人の組合歴としては、前記日本発送電入社と同時に当時の電気産業労働組合(略称電産)に加入し、昭和二七年四月同組合名古屋火力発電所分会執行委員長、同愛知県支部代議員、昭和二七年一二月中電労組結成に伴ない同組合に加入し、本部代議員二期、支部執行委員二期、支部代議員、本部組織専門委員等を歴任している。

第二、被保全権利

一、申請人の被選挙権

申請人は、前述のとおり、被申請人中電労組の組合員であり、同組合規約第四〇条、第四三条、第四六条、第七二条一号により、本部代議員、評議員、本部役員(本部執行委員長、同副委員長、同書記長、同執行委員等)の被選挙権を有している。

二、本件選挙

被申請人中電労組は、昭和四九年五月一七日本部選挙会選挙長萩野裕名で組合員に対し、「本部執行委員長、同副委員長、同書記長の選挙を同年六月一三日施行する。立候補者の受付期間は同年五月一七日から同月二九日までの一三日間とする。」旨の選挙告示をなした。

中電労組の組合規約第四六条によれば、右本部三役は本部大会で代議員の直接無記名投票により組合員の中から選ばれることとなつており、右選挙の選挙権は本部代議員が有するが、被選挙権は、一般組合員が有することになっている。

三、申請人の立候補と被申請人による妨害

申請人は、昭和四九年五月二〇日前記本部執行委員長選挙に立候補する決意を固め、所定の立候補届用紙(選挙規則別表様式一)に必要事項を記入(但し、所属政党は必要的届出事項ではないと判断したので記入しなかつた)のうえ、同日午前九時頃これを本部選挙会に対し提出した。

ところが、本部選挙会は申請人が提出した前記立候補届には、所属政党の記入がないという理由で右立候補届の受理を拒絶した。本部選挙会は、本部執行委員会によつてつくられた本部三役の選挙の事務および管理をおこなう機関であるが(選挙規則第四条二項)、本部執行委員会から、本件選挙につき所属政党の記入のない立候補届は受理しないよう指示されている如くである。

四、立候補届の所属政党欄の取扱いに関する経緯

中電労組の立候補届の様式には、確かに立候補者の所属政党を記入する欄が設けられている。しかし、この欄は従来必要的記載事項としてではなく、任意的記載事項として取扱われており、所属政党の記入のない立候補届も選挙会によつて受理され、右事項を届出ない立候補者も立候補者として認められてきた。

ところが、昭和四九年度の組合選挙から、被申請人は所属政党は立候補者の必要的届出事項であり、この記入のない立候補届は選挙会において受理しないという見解および方針をとるようになつた。そして昭和四九年三月実施の地方本部代議員、同役員選挙、同年四月実施の本部代議員、本部役員選挙において、被申請人中電労組の本部執行委員会は、各級選挙会に対し前記方針を指示し、右選挙会も同方針を支持するようになつたため、所属政党無記入もしくは「記入の必要なし」と記入した立候補届は受理されず、立候補者としての公示においても除外されることとなつた。

このようにして、立候補届が受理されず、被選挙権の行使を実質的に奪われた組合員は前記四種の選挙全体で八名にのぼつた。

(注)内訳 長野地本(本部執行委員一、評議員一、本部代議員三)岡崎地本(評議員一)飯田地本(地本執委一)岐阜地本(本部代議員一)

なお、申請人は前述の昭和四九年四月の本部代議員選挙にも立候補しており、このときは立候補届の所属政党欄を無記入で提出しようとしたところ、岐阜地方本部選挙会は、「所属政党なしならば、なしと記入すること、あるならば必ず記載されたい、ともかく何か記入して提出しなければ受理できない」というので、当該欄に「記入の必要なし」と記入して提出した。しかし、右選挙会は、申請人の立候補届を内容不備として受理せず、申請人を右選挙の立候補者として公示することもしなかつた。

以上の経過に引続いて、本件選挙の立候補届の不受理問題が起つているのである。

五、被申請人の本件措置の違法性・不当性

1、組合規約・選挙規則の解釈

中電労組の組合規約、選挙規則、同細則には、組合選挙の立候補者は、その所属政党を届出なければならない旨の明文の規定はなんら存しない。

選挙規則第一五条によれば、選挙に立候補する組合員はきめられた立候補届(様式一)に記入して選挙期日の一五日前までに選挙会に届出ることとされており、同規則別表の立候補届の様式には、立候補する選挙名、届出年月日、届出者氏名の外、一、所属(地本・支部・分会)、二、氏名、三、生年月日、四、組合経歴、五、所属政党、六、主義主張の各欄が設けられており、これらが届出事項であることは明らかであるものの、右事項の全部が立候補者の必要的届出事項であるか否か、右事項の一部(所属政党)の記入のない立候補届の効力如何については、右条文および右立候補届様式の内容だけからこれを判断することはできない。

また、選挙規則第八条には、選挙会は立候補者の資格を審査し、立候補者の氏名、主張、所属政党その他の必要事項を少なくとも選挙期日の一〇日前までにその選挙区の組合員に通知する。と規定されているが、右条文は選挙会の組合員に対する立候補者の資料に関する周知義務を定めたものであり、立候補者がその所属政党の選挙会に届出た場合選挙会はこれを選挙区の組合員に通知する必要があるとの趣旨であつて、所属政党が立候補者の必要的届出事項であると解する根拠にはなりえない。

2、国・地方公共団体の選挙と 働組合の選挙

国および地方公共団体の職員等の選挙においては、公職選挙法第八六条第三項により、公職の候補者になろうとする者は、所属政党その他の政治団体名を届出なければならないこととされている。しかし、これは国および地方公共団体の政治が政党政治を予定しており、選挙民の候補者選択の意思決定に立候補者の所属政党如何がきわめて重要な役割をもつからであり、更には、その選挙活動が公然とした大規模の政党活動として展開され、選挙の事務およびその管理においても立候補者の所属政党を明確に把握する必要が存するからに外ならない。

これに対して、労働組合の運営においては、政党の関与はきわめて微弱間接的であり、労働組合が組合として政党の政策上の諸問題に深入りし、また政党間の対立抗争に巻込まれることがあれば、労働組合の基本的性格――労働者が資本と対等に交渉しうる立場に立つために、労働者個々の思想、政治信条の差異を超えて自主的に結集した団結体であるという性格――を没却することになり、ひいては分裂の危険を招来する結果にもなりかねない。

国および地方公共団体の政治は、政党政治といいかえてもよいほどに政党を離れては考えられないのに対し、労働組合の場合には、組織的統一と団結の客観的基礎は、労働者の資本に対する一般的要求の存在に求められ、そこに他の社会集団と同様若干の「党派的現象」が存在したとしても、それが前記労働組合の本質を左右するものではなく、運営と活動の基盤が政党的結合によつて支えられる国家とは著るしく性格を異にしている。

労働組合の選挙における争点は、労働条件の向上その他組合活動上の問題が中心となり、通常、選挙活動が公然とした政党活動として行われることはない。

以上の点からみて、労働組合の選挙の立候補者に対し、その所属政党の届出を義務づける一般的必要性は存在しない。

3、中電労組と政党との関係、組合選挙の実態

中電労組は、その活動方針において民主社会主義を標榜し、民社党支持を決定している。

しかし、労働組合内で民社党を名乗る組合員は若干名にすぎず、同党員の党活動は皆無に等しい。

民社党以外の政党の党員については、党籍を公然と名乗ることは、不利益に通ずることが予想され、殆んど公表されていない。

また、中電労組の昭和四九年度における各級組合選挙において、立候補届に所属政党名を記入して提出した立候補者はごく少数であり、申請人の知る範囲では、民社党三名、共産党一名の計四名にすぎない。右選挙の立候補者の延総数は一、一〇〇名程度であり、この中で所属政党名を記入した者は、おそらく一%にも満たないと考えられる。

従つて中電労組の組合員が、立候補者の選択において、その所属政党の如何を重要な判断資料にしているとは到底考えられない。

なお、被申請人中電労組と同じく電気産業企業の労働組合である関西電力労働組合および東京電力労働組合においては立候補者に所属政党の届出が要求されていない。

以上により、申請人には、組合規約のうえでも条理の点においても、本件選挙に立候補するにあたり、所属政党を被申請人の本部選挙会に届出なければならない法的義務はなく、従つて所属政党の記載を欠いた申請人の前記立候補届は有効であり、申請人は右立候補届を被申請人の本部選挙会に提出したものであるから、申請人は本件選挙の立候補者の地位を有することが明らかである。

第三、保全の必要性

被申請人は、前述のとおりあくまで所属政党の記入のない立候補届は受理しないという方針であり、すでに申請人の提出した前記立候補届を受理せずこれを提出とほぼ同時に申請人に返戻した。そして申請人が本件選挙の立候補者であることを認めようとしない。

しかし申請人は、前述のとおり一旦右立候補届を被申請人の本部選挙会に提出した以上、申請人の本件選挙の立候補届の手続は完了しているものと解している。

仮に、被申請人の本部選挙会が、右立候補届を申請人の提出と同時に申請人に返戻したという理由で、申請人の立候補届の手続が完了していないと主張するとしても、申請人は昭和四九年五月二一日右立候補届を被申請人の本部選挙会に対し郵便によつて送付した。

本件選挙は、前述のとおり立候補届の〆切が同年五月二九日で選挙期日が同年六月一三日ときわめて切迫しており、申請人が被申請人の妨害によつて本件選挙の立候補者としての地位が認められないとするならば、同人の組合員としての重要な権利である被選挙権を本件選挙につき事実上行使できず、申請人の組合活動ならびに組合の発展にとつて著るしい損失であり回復しがたいものである。よつて本申請に及んだ。

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